ハンコ注射の跡はなぜ残る?なぜしなきゃいけないの?

二の腕の外側に、ハンコ注射の跡ってはっきり残っていますか?あまり他人の二の腕の上の方を見る機会もないと思いますが、私の学生時代は医療系かつ体育会系だったので、結構見る機会がありました。たいていの人の二の腕にありますよね。9つの点が、成長のためかその人によって広がり具合が違うのを何となく比べてしまったり、気になるあの人のハンコ注射をつい盗み見てしまったり…と、私にとっては青春の思い出の一部です(笑)。

ところで、ハンコ注射って何の目的でしているかご存知ですか?

正解は、結核予防のためです。予防接種の時には、BCG注射などと表現されることが多いので、分かりにくいんですよね。

BCGとは、フランス語でBacille de Calmette et Guérin の略です(カルメット・ゲラン桿菌という意味)。ウシに感染する結核菌を、実験室で長期間にわたり培養を繰り返していたら、結核は発症しにくいけれども接種することで人間に結核への免疫を作ってくれる弱い細菌が生まれたそうです。この細菌のこと、あるいはこの細菌を利用したワクチンのことをBCGと言うんですね。このワクチンは生きているワクチンのため、インフルエンザワクチンの様に何回も打たなくても、1回その病気に一度かかったかの様にしっかりした抵抗力を作れる利点があります。十分な免疫を得るには1か月くらいかかります。

ちなみに、意外な所では、膀胱がん(主に筋層非浸潤性がんという種類)の治療で、「BCGを生理食塩水に混ぜ、膀胱内に注入し尿と共に一定時間膀胱の内側の壁に接触させる」という治療方法もあるようです。切除後の再発予防に有用だそうですが、期間や方法、副作用の問題も大きいそうです。膀胱がんへの効果は、1991年にNew England Journal of Medicineという雑誌で論文発表されたそうですが、そもそも、一体誰が最初に結核予防のため生まれたBCGが膀胱がん治療に使えると気づいたのでしょうね…。

話が逸れました。ハンコ注射はその注射針の様子や注射の跡からそう呼ばれていますが、医療用語では管針法(かんしんほう)というのだそうです。接種方法は、皮膚にワクチンを塗って、例の9つの針を2箇所に刺して皮膚に小さい傷からワクチンが入る様にします。

昔は経口摂取、つまり菌を飲んでいましたが、効果は薄かったようです。より効果的にするために皮下接種(皮膚と筋肉の間にある皮下組織に注射)を行っていましたが、注射部位に潰瘍(皮膚の上の方がえぐれる)や膿瘍(えぐれて膿がたまる)などができやすかったそうです。そのため、皮内注射(皮膚の表皮とすぐ下の真皮の間。皮下より浅い)にするようにしたのですが、そんな薄い皮膚部分に注射するなんて難しいので、結局皮下注射になってしまったりうまく出来ても目立つ大きな跡が残ったりしたため、最終的に生まれたのがあのハンコ注射を使用した経皮接種だそうです。あの形は、ある文献では「最も洗練された経皮接種法」と表現されています。
…あれはあれで、予防接種界ではスタイリッシュなんです…かね…?

肩に打つとケロイドになりやすいという報告があるため、二の腕の外側の中央部(三角筋下端)に打つことと薬機法という法律で定められているそうです。打つ場所も法律で決まってるんですね…。なぜあの跡が残ってしまうかというと、膿んだりかさぶたができたりするからの様ですね。

実は、BCGの効果は子供の頃の結核予防や重症化、結核による髄膜炎などの予防には効果的ですが、大人の飛沫・空気感染による結核の予防には、地域によって効いたり効かなかったりとまちまちだそうです。ですから、接種するかどうかは国によって違うようです。法律も違うからか、国が変われば打つ場所も少し違うようですよ。

ただ、高齢者で結核菌を持っている方もいらっしゃいますし、結核にかかるリスクは意外と身近にあります。BCGによって、肺がん治療や、似た種類の菌であるハンセン病の菌への予防効果について説明する論文が発表されているなど、結核予防に留まらない効果も研究が進んでいるようです。

ハンコ注射によって目立つ跡は残ってしまいますが、意外と地味に重大な感染症から我々を守ってくれているんですね。


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